3月5日の土曜日京都支部の研究会があったので参加しました。
毎年様々なテーマで開催されていますが多くは京都の土地柄でしょうか、人形や伝統工芸に関連した研究会です。
ちょうどひな祭りの時期ですのでひな人形に関連した講師の方をお招きして普段お聞きできないお話を聞けることができました。
江戸中期より数えて
14世の面屋庄甫さんのお話はとても興味深く聞かせていただきました。
現代彫刻のアーティストでもある面屋さんはある次期おじいさんの作られた人形を見てその美しさに感動し、この世界を次いでゆくことを決意されたそうです。
ずっと人形作りをしてこられた家系ですのでそのDNAは知らないうちに引き継がれていたのでしょう。
代々伝わっている貴重な資料を会場まで持ってきていただいて間近にみせていただきました。
村上登志一さんは雲上流造花師、村岡松華堂の8代目で桃の節句や五月人形等の脇役である造化の製作のお仕事をされていて、京都の地である故に御所等の様々な行事での造化を製作していた家柄の8代目です。
今回はひな祭りに欠かせない桜と橘の製作実演をしていただきました。手製のこてを使ってあらかじめ形にカットした白羽二重の生地を染めて薄美濃紙を裏打ちしたものをこのこてでいわゆるカールをつけてゆきます。このカールは今ではほとんど型を使っているそうですが村上さんは伝統的な手法を守ってこてで一つずつ形作っていくことでそれぞれ一枚ずつ微妙に違った造形になるので自然に近い表現ができるということです。
普段はやはり炭火でこてをあぶってられるそうですが、会場の都合で今回は電熱(これも時代物です)を使われていました。電熱だとこてが傷むそうです。
もうお一人の実演は京人形の頭の髪付けをする職人さんの井上正幸さんです。
京人形は分業制で問屋が頭と手足、髪飾り等の職人さんから調達したそれぞれの部品を組み立てて着付けをして仕上げます。
頭の職人さんは頭のみを製作して髪をつけて結い上げるのは髪付け師の仕事になります。
問屋から預かった頭に小刀で髪をつける部位、前の生え際と後の生え際に溝を彫ってそこによっていない絹糸(すが糸)をこれもまた染め屋で真っ黒に染めたものを植え付けてゆきそのあと髷を結い上げて髪飾りで仕上げて問屋の納めるという仕事です。
胡粉を塗り固めて作った頭に刀をいれる作業は非常に緊張感があるそうですが、やはり修行をおさめた職人さんなのでその緊張感等みじんも感じさせない早さでどんどん彫り進めててゆかれるのには驚きました。
伝統的なもの作りが時代の流れとともにだんだんと忘れ去られたり、途絶えたりする中、何代にも渡り技法も守ってゆくのは難しいことでしょうが、京都の土地柄でしょうかまだまだ需要があり伝統的な工芸が生きながらえる素地があると思います。
歴史的に見て京都は宮中文化と切り離せない関係にありそれらの昔ながらのしきたりや風習を守り続ける一面があるからこのような技法も伝承してゆけるのだと思いました。
京都造形大学の藤井秀雪さんの「京の工芸 匠の技」がテーマの講演の中で京都の文化的な伝承技術の奥深さを感じ取れました。
京都の職人さんたちが生き延びてきたのは古くから伝わる伝統を重んじながら新しい技術も取り入れて時代に即した方法で伝統を守ってきたバイタリティがあったからではないでしょうか。
講演後の懇親会は祇園で行われました。久しく足を向けていませんでしたのでその変貌ぶりに驚きました。
電柱は一本も無くなり石畳の道になって黄昏の祇園町は観光客でごった返していました。
ただ、裏道に入ると町家をそのまま使ったレストラン等が増えていましたがまだまだ祇園町の風情が残っていたのでちょっと一安心。
置屋のたたずまいもそのままで今にも舞妓さんや芸妓さんが引き戸を開けてでてきそうな雰囲気でした。
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